行動観察研究所

コラム

2015年5月8日(金)

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環境心理学で考える第59回 まとまると変わるもの(1):合成の誤謬と生態学的誤り

 経済学の用語に「合成の誤謬」というものがある。誤謬(ごびゅう)というのはあまり見なれない言葉かもしれないが、論理的な間違え(正確に言えば、論理的な誤りがある妥当ではない論証)のことである。

 そして、合成の誤謬とは「単独で行われた場合では合理性がある行為が、多くの主体によって行われ「合成されると」、望ましくない効果や結果を生み出すこと」を意味している。経済においていちばん有名な例は、不況下で各世帯が倹約をすると、消費が落ち込むことで経済活動が低下し、ますます不況になるというものである。不況なので、将来に備えて倹約するという行為は世帯単位での単独では合理的なのだが、多くの世帯で倹約することが合成されると経済活動が低下し、悪化するという望ましくない結果を導いてしまうということである。みんなで倹約するとますます不況になるということだ。同じようなことは、企業における過剰な賃金値下げやリストラ、過当な値下げにも当てはまる。いずれも、消費購買力を下げたり、収益率を下げることで全体としては経済に悪影響を与えかねない。

 社会学・社会科学の用語に「生態学的誤り(生態学的誤謬)」というものがある。これは、「複数の要素(変数)間の関係を検討する際に、データをまとめる単位の大きさによって結果が変わること」を意味している。たとえば、小学校の調査である(1つの)算数のテストの成績と50m走のタイムの関係を調べたとする。学年を分析の単位にした場合には算数のテストと50m走のタイムの間には非常に高い相関が見られるだろう。それは当たり前で、6年生のほうが1年生よりも明らかに算数の学力も走力も高いからである。しかし、学年ごとに同じ相関をとった場合にはそうした高い相関は見られないだろう。もしかすると負の相関が見られる可能性もある。つまり、勉強が得意な子と運動が得意な子が分かれる可能性もあるのだ。したがって、前者の学年を単位とした分析が示す高い相関関係から、走力と算数力には関係があるという結論をくだすのは、必ずしも間違えではないが、誤った印象を与えやすい。しかしこうした結論の導き方は世間では少なくない。さらに、この結果から運動をすると頭がよくなるという結論を出すことは間違えである(運動すると頭がよくなることを否定しているのではない。事実はそうかもしれないが、今言っているのは、学年を単位とした分析の相関係数の結果からは言えないという話である)。相関は何の因果関係を意味せず、この相関が生まれている原因はお互いの因果関係ではなく、共通の原因である「成長」であるからである。

 話が長くなったので、以下は次回に。

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羽生 和紀 先生
日本大学文理学部 教授

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