行動観察研究所

コラム

2014年8月28日(木)

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松波の気づき「何もしない」というリスクをどう評価するか?

 「世の中が全体的に“リスク回避”に動いている」「会社がリスクを取らなくなった」という話をあちこちでよく聞くようになった。こういった現象は、みなさんの周りでも起こっていることではないだろうか?

 

 様々な環境的要因(例:人口など)が縮小する中、それでも企業は高い目標を掲げて成長を求めている。このような「あえてリスクをとらなければならない」状況にあって、なぜ「リスクを取らなくなる」のであろうか?様々な理由が考えられるが、私はその原因を「失敗を恐れる人間の特性」にあると考えている。

 

 「縮小均衡」の中、「自らの職、給与、生活レベル」を「失われるかもしれないもの」としてとらえると、「自分に×を付けられたくない」と考えるようになる。「失敗しないようにしよう」「失敗しても、自分に×がつけられないよう、うまい言い訳を考えよう」と考えていくことは、ある種自然なことであると考えられる。しかし、そのようなマインドセットで、お客さまに、そして世の中に、“価値”を提供できるだろうか?

 

 落語に「ぜんざい公社」という噺がある。公社が経営する「ぜんざい屋」に行った男性が、窓口でなにかと書類を書かされ、たらいまわしにされた上に肝心のぜんざいを食べる前に高額を請求される。あきれた主人公が途中で「ぜんざい食べるのをやめます」と主張すると、「いったん成立した契約を一方的に破棄するのなら懲役です」と言われてしまう、しかも肝心のぜんざいは汁も甘みもない、という話である。

 

 この「ぜんざい公社」の「公社側の中の論理」にはスキがない。常に公社側が完璧に「言い訳」できるようになっている。公社側は絶対に「失敗したことにならない」し、何か問題があっても言い訳ができるので「職員に×がつくこと」はない。しかし、わざわざ来店したこの男性に「価値」を提供することはできない。個々人に×がつくことはなくても、「公社」には顧客から大きな「×」がつく。つまり、「客はもう来ない」という「×」である。

 

 「リスクを回避すること」と「お客さまに価値を提供すること」と、どちらが大事になっているか、でお客さまからの評価は決まる。なぜなら、その組織を存在たらしめているのは、その企業にお金を払っている「お客さま」だからである。
 
 「ゼロ・ダーク・サーティー」という2012年公開の映画の中に、「情報を提供し、作戦を立案し、意思決定を促す立場」のCIAの責任者が、「大統領に最終の意思決定を提案する立場」である国家安全保障担当補佐官に対して、以下のセリフを言うシーンが登場する。

 

 「あなたのような立場の人は、“何もしないリスク”をどう評価するのですか?(原文:how do you evaluate the risk of not doing something?)」

 

 作戦を実行するかどうかの意思決定をするにあたって、国家安全保障担当補佐官は100%の確証を求める。様々な情報から、「作戦を実行という意思決定」をするべきだ、という確度は高いものの、さらなる手を尽くしても100%の証明をすることが困難な責任者としては、「何もしないリスク(=作戦を実行しないリスク)」により、すべてが無に帰することに言及せざるをえなくなる。

 

 リスクを避けるためには、「何もしなければいい」と考えるのは自然なことである。何もしなければ、短期の失敗もしないだろう。しかし、「何もしない」というのも、「何かをする」のと同じぐらい、もしくはそれ以上の「意思決定」であることを認識する必要がある。リスク回避が習い性になった行く先には「ぜんざい公社」状態が待っている。つまり、短期的なリスクを避け続けていると、長期的なリスクが待ち構えているということである。

 

 「生命とは何か?」「生命はなぜここまで進化できたのか?」がテーマの「生命のからくり(中屋敷均著、講談社現代新書)」という書籍を読んだ。本書の「あとがき」から引用する。

 

 『本書の内容は(中略)煎じ詰めると二文になる。一つは、生命であれ文明であれ「発展する事象」の本質は、有用情報の漸進的な蓄積であるということ。そしてもう一つは、その漸進的な蓄積は、相反するベクトルを持つ二つの力の相克によって起こるということだ。(194ページ)』

 

 上記に書かれていることは、「組織」にも言えることだと思いながら読んだ。つまり、生命においても組織においても、「自己の情報をきっちりと保つ」というベクトルと、「自己の持つ情報を変革する」というベクトルの両方があることが「進化の両輪」となって発展をしていく、ということである。「自己の情報をきっちりと保つ」ことだけを優先すると、究極的には「ぜんざい公社」になる。短期的な保身はできても、それでは環境に適応できず、結局は生き残れない。

 

 本書によると、DNAは「自己の持つ情報を変革する」という特性をそもそも持っているとのこと。だからこそ、原始時代から現代にいたるまで、人間は飛躍的な進歩を遂げることができたのである。

 

 つまり、「何もしない」(=「保つだけ」)というのは、生命にとっても組織にとっても不自然であり、不健康なことなのである。それはただ単に「前進しない」ということだけでなく、「じっくりと後退する」ことを意味するのである。「停滞は後退」という前提を共有し、ぜひ「常に一定の自己変革に取り組む」という前提で物事を考えていただきたい。

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