研究員コラム
研究員コラム 第20回
2011年11月28日
研究員の久保隅です。みなさま、こんにちは。2ヶ月ほど前になりますが、アメリカのコロラド、ボルダーで開催されましたエスノグラフィの産業応用に関する国際学会EPIC2011に、松波所長とともに参加、Artifact Sessionにて発表していまいりました。
今回のコラムでは大阪ガス行動観察研究所が発表したサービス現場でのエスノグラフィック・リサーチ・プロセスを中心にご紹介したいと思います。

すきっとした青空に緑の山のコントラストが素敵なボルダーの町並み。
宿泊先から、学会会場のホテルまでの道のりで撮影。
昨年度は東京のミッドタウンで開催されたEPIC。今年は大自然に抱かれたコロラド、ボルダーで、2011年9月18日~21日の日程で、「Evolution/Revolution: Change ethnographic work」をテーマに、アメリカを中心に欧米や南米など様々な地域から参加者が集い、4日間たっぷりと濃密な議論が交わされました。
この学会コミュニティの特徴といいますか、コアの一つとして、とにかく参加者間でのインタラクティブな議論、議論、議論、議論、議論・・・を通じて考えや思い、共感を交し合うという点があります。通常ですと、発表者による発表と質疑が中心に行われますが、グループ単位等でディスカッションする機会が学会プログラムの随所にデザインされており、積極的な発話というハードルはありますが、傾聴し、共感し、新たな発見を得るというまさにエスノグラフィック・アプローチの髄が、学会のプロトコルとしても実践されているわけであります。

エスノグラフィに関するテーマを設定して、ディスカッションを行うUn Panel。
セッション後にボードにディスカッションした内容やコメントが次々と書き込まれる。
1日目はGrad student のためのGraduate Symposium、ボルダーでのShort excursion を通じたReflectivities(体験イベントのようなもの) とOpening reception。レセプションではお酒を片手に参加者と久々の面会を喜んだり、新たな出会いを楽しんだりしました。昨年の東京での開催では裏方に回って、レセプションやディナーパーティの準備に奔走していましたが、今回は終始リラックスして楽しめました。時差ボケなのか、リラックスしすぎているのか、お酒の飲みすぎなのか、分かりませんが・・・。
2日目からいよいよ学会本番。Hugh Dubberly氏によるOpening Keynote、口述発表Paper session、ペチャクチャナイトをモデルにして昨年度からスタートした新しいプレゼンセッションのPecha Kucha session、そして夜はDinner partyと盛りだくさんの内容です。Opning KeynoteではHugh Dubberly氏が、「On models」というタイトルで、現代の社会状況や構造、コミュニケーション様式などの変化や変容に言及しつつ、それらをふまえたリサーチとデザインの実践について問い直すものでした。
特に、リサーチによる具体的な発見から、コンセプトやデザインを導くための型や教育の欠如を指摘され、両者をつなぐモデルの必要性について説かれました。私も「エスノグラフィック・リサーチって、どうやったらいいんですか?」「フィールドワークってどうしたらいいですか?」といろいろな方に聞かれる機会が増えました。文化人類学者のAlfred Kroeberが学生にフィールドワークについてアドバイスを求められたときに、「ノートと鉛筆を買いなさい」と話したというエピソードがあるように、フィールドワークはなかなか座学だけでは教えることが難しく、経験やアートの側面があります。
しかしながら、エスノグラフィック・リサーチを実践する、エスノグラフィック・リサーチを通じて新たなものを創造するためには、複数の人や組織で実践、運用できるようなモデルを作り、アートと実践、ビジネスの橋渡しをしていくことが喫緊の課題であることを再認識しました。
3日目はWorkshops、The Unpanel、Paper Sessionと続き、いよいよ、一日の最後にArtifact Sessionがあり、私たちの発表となります。前夜のDinner partyではその準備に慌しく追われて、結局あまり参加できませんでした。。。が、そんなことはさておいて、午後の最後のセッションで気合を入れて、発表に臨みました!
Artifact Session はポスターやデモによる発表です。オーディエンスの人々と直接インタラクティブに意見が交し合い、フィードバックをもらえる点がメリットです。今回は、「“Thiquick Ethnography”: Thick & quick ethnographic research process for improvement of service sectors」というタイトルで、紀伊國屋本町店さまで行った売り場改善の事例を用いて、サービス現場向けのエスノグラフィック・リサーチ・プロセスについて紹介しました。
サービスには、無形性(サービスには形が無い)、生産と消費の同時性(生産と消費が同時に起きる)、結果と過程の等価的重要性(サービスではプロセスも大切)、顧客との共同生産(サービス活動は顧客との相互作用)といった特性があります。したがって、サービスの授受を捉え、そこから課題を発見し、ソリューションを実践する全てのプロセスはまさに『現場』が起点、舞台となります。
日々めまぐるしく変化する現場において、お客さまのニーズを汲みつつ、限りある人員やリソースで生産性を上げるためには、短期間でのミニマムな調査分析、現場で即実践可能なソリューション提案、ソリューション検証と具体的な効果がキーとなります。それらをふまえた、”thick”かつ”quick”なプロセスにしなければなりません。このプロジェクトでは調査から分析、ソリューション創出と検証までを5日間という超quickな期間で行うという挑戦をしました。
発表タイトルにもあります、”thick”という言葉は、文化人類学者のClifford Geertz(1973)による”thick description”からとりました。エスノグラフィック・リサーチのコアでもある、文脈が豊富な”ぶ厚い記述”。サービス現場では常にお客様がいらっしゃり、刻々と変化しています。長時間フィールドに入ることが許されない場合も多々あります。こうした制約と分厚い記述とをいかに両立させることができるか、分厚い記述を、現場とわれわれが共有しながら、自分たちのすべきことを再認識すること。さらにステップバイステップで前進し、仮説・実行・検証のプロセスとスモールスタートとスモールサクセスのサイクルを回していくこと。そして最終的にはサービス現場の組織に有機的かつ自律的なイノベーション文化を育てること、について問題提起をさせていただきました。
今回の学会のテーマ、Evolution/Revolutionにも通じますが、小さな発見、再認識をきっかけに、大きな活動にしていくことの意義を学んだ事例となります。聴講者の方々からは、共感や励ましの言葉や、「5日間でやるなんで、びっくりだよ!」というコメントをいただき、サービス現場での制約や限界をあきらめるのではなく、乗り越えていくこと、挑戦していくことへ、再び闘志を燃やす決意を新たにしたのでした。
ちなみに、発表方法はオーソドックスなポスターですが、ちょっぴり工夫したのが、「いいね!(Like!)」シールです。これはもちろん、Facebookからヒントを得たものになりますが、良かった点、面白かった点にぺたぺたとシールを貼ってもらって、インタラクティブにフィードバックをいただこうというものです。このシールが意外と好評で、参加者のみなさんも楽しそうに貼ってくださいました。「発表しているあなたがいいわね」と私も腕にぺたっと貼っていただいたり(笑、「このスライド面白いね!」とPCに貼ってくれたりと、シールのぺたぺたを通じた気軽なコミュニケーションを楽しんだのでした。松波所長のパソコンには、いまだにこのシールが貼られております。「いいね!」、恐るべし。

発表ブースで松波所長とぱちり。私の腕にはLike!シールが。
最終日はPaper SessionとClosing Keynoteにて終了。最終日にしてようやく時差ボケも解消しましたが、もう帰国です(涙。 毎日盛り沢山、アップアップするような充実した4日間を過ごすことができました。もっともっとお伝えしたことがたくさんありますが、それは直接みなさまとお会いした際にとっておきたいと思いますので、「EPICどうだった?」とぜひお気軽にお声がけください。

研究員 久保隅 綾











