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研究員コラム

研究員コラム 第19回

2011年10月28日

 いきなりですが、問題です。下の写真は、広島県呉市にある「アレイからすこじま」という、日本で最も間近で潜水艦を見ることができる公園から撮影したものです。この写真の中に、潜水艦は何隻あるでしょう? 

 

 

潜水艦

     

 答えは、4隻。左側に1隻、中央に2隻あり、右側に1隻あります。お分かりいただけたでしょうか?地味な潜水艦と比較して、右側には数隻の護衛艦らしき艦艇があります。「やっぱり護衛艦は格好いい!それに引き換え、潜水艦は地味だなあ」と思われるかもしれません。しかし、潜水艦の本当の姿はめちゃくちゃデカイのです。 

 

 下の写真をご覧ください。これは以前まで実際に使用されていた本物の潜水艦で、現在は現役を引退した潜水艦「あきしお」です。全長76.2m、深さ10.2m。右下の自動車と比較すると、その大きさが実感できるのではないでしょうか。現在は、外部だけでなく、艦内の一部も一般公開されています。 

 

潜水艦2 護岸に係留されている状態では、その大部分が海中にあって見えないけれど、実際は非常に大きい…。あれ?こんなフレーズ、どこかで聞いたことがありませんか?

 

 そうです。人間の「心」の説明です。ここでも説明されているとおり、心理学では、人間の心のうち、言語化(意識化)できる部分はほんの一部で、大部分は意識することができていない、とされています。しかし、『言語化された領域は氷山の一角』といっても、「氷山」を身近なものとして捉えることは難しいものです。

 

 ここはひとつ、今後、心の説明をするときは、『潜水艦』を使ってはいかがでしょうか?

 

 冒頭の写真にもありますとおり、護岸に係留されている間は、その姿のほんの一部しか見ることができません。すなわち、心の構造と同じように、「見ることができる」、つまり顕在化できるのは、ほんの一部で、大部分が海の中の「見えない」ところ、つまり潜在的過程にあります。

 

 ほかにも、潜水艦には心と類似した点があります。ここでは、そのうち1つを挙げましょう。それは、直面する(もしくは、これまでに直面してきた)問題に対して、適切に対応できるようになっている、という点です。

 

 潜水艦は、言うまでもなく、航行の過程で想定される個々の課題に対して、適切な反応ができるようになっています。

 

 例えば、敵艦と遭遇した場合に適切に対処できるように、敵艦との距離を測定する装置や、魚雷を発射するための装置などがあります。しかし、クラクションが鳴らなかったり、スピードを遅くしても艦体の後方が赤く光らないなど、明らかに発生しない課題に対して対処する機能は装備されていません。

 

 実は、同じことが、人間の心に対してもいえます。進化心理学と呼ばれる心理学の一分野では、我々は、生命が誕生してから今日のヒトに至るまで生存・繁殖を可能にした心を持っているとの仮定のもと研究が進められており、その結果として、進化の過程でたびたび発生した課題に対して適切に対処できるようなデザインを持っている、と考えられています。

 

 つまり、ありとあらゆる課題に対して反応するのではなく、進化の過程、特に長期間続いた狩猟採集時代に頻繁に遭遇した問題に対して、「領域限定的に」反応するということです。

 

 「じゃあ記憶とか推論などの一般的な能力を持っていないのか」という疑問が湧き上がってきますが、もちろん今のヒトにそれがないわけではありません。これらの能力は、進化の観点からいえば、その領域限定的な心から派生したものだと考えられています。

 

 例えば、以下の問題について考えてみてください。

 

問題

 

 ちなみに、問題Aの正解は、「E」と「7」、問題Bの正解は、「焼酎」と「17歳」です。問題Bの方でのみ正解し、また簡単と感じた方は多いのではないでしょうか?実は、両問題、論理学的には構造が同じなのです。つまり、「PならばQ」という規則が成立していることを確かめるためには、Pnot Qを確かめなければならない、ということです。

 

 このように、一般的な推論問題として考えると非常に難しい問題が、「社会規範に違反した人間を検知する」という、社会生活を営むヒトが進化の過程で直面したと想定される「領域固有的な」課題に置き換えることにより、解きやすくなります。

 

 これは、我々が領域限定的な心を持っている、つまり、進化の過程でたびたび直面した問題に対して、適応的に対処できる心を持っていることの証拠の1つとして挙げられます。一般的な推論能力という、進化の過程ではあまり必要とされなかった能力を発揮することは、非常に難しいことなのです。

 

 このように、潜水艦も人の心も、直面する(直面してきた)課題に対して適切に対処できるようになっている、という点で、類似点があることがお分かりいただけたのではないでしょうか?

 

 今回はこの例を出しましたが、他にも類似点があると思います。また、それとは逆に、相違点もあると思います。行動観察調査でご一緒させていただく機会がある際は、ぜひ議論させていただきたいと思います。

 

 

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研究員 三谷 信広


エルネット

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