環境心理学で考える
環境心理学で考える 第4回
2009年10月26日
なぜエレベーターに乗ってしまうのか:階段の認知距離
日本大学文理学部教授 羽生 和紀
ビルの中では、たかだか2階に上がるときでもついエレベーターに乗ってしまう人は多い。階段を使えば、数十秒で到着するのに、しばしエレベーターを待ってまで、エレベーターを使ってしまうのはなぜなのだろうか。
頭の中での距離の間隔を認知距離というのだが、ある種の階段の認知距離を尋ねると、実際の距離の数倍の距離だと答える人が多くいることが分かる。つまり、実際には15メートルしかない階段の移動距離を、30メートルから40メートル以上だと思っている人がいることになる。したがって、階段はその距離を実際よりも非常に長く判断されることが、階段が敬遠されがちな理由だと考えることができるかもしれない。
しかし、このように過大に長く判断される階段は、階段の端(たとえば階段の一番下の段)から階段の別の端(たとえば階段の一番上の段)が見えない階段に限られている。つまり、建物内部の、踊り場がある、途中で折り返しがある階段の場合などである。階段の端から端までが見渡せる階段、つまり折り返しのない直線状の階段や、建物の外にあり全体が離れた場所から見渡せる非常階段などでは、こうした距離を非常に長く見積もるというようなことはほとんど起こらない。
このことから、階段の距離が非常に長く評価される理由として、次のような解釈も可能である。それは、階段はそもそも上り下りの負担が大きく、また転ばないように気も使うので不快な感情を持たれている。したがって、実際の距離が見えずに距離があいまいな場合には、正確な判断をする情報が不足しているので、その不快な感情が距離を過剰なまでに長く評価させてしまう。
つまり、長いと思っているから不快になり階段を使わないのではなく、不快に思っているから長いという感じが生まれ、その結果おっくうになり階段を使わないという可能性があり、どうもこちらのほうが正しそうなのだ。人間というのはずいぶん理性的な存在のような気がしているが、この階段の距離判断の例は、実際には情報が不足しているなどのあいまいな状況では、本来は感情的な反応が、一見理性的な判断の結果のようなふりをして表れてくるということの一例だろう。
しかし、このことを環境デザインに応用することができる。たとえば、商業施設などで2つのフロアの間の移動を促し、スムーズな接続を実現したい場合には、階段やスロープに折り返しを設けず(できれば傾斜もなだらかにし)、一つのフロアからもう一方がよく見えるようにすればいい。中2階のような、短い見通しのきく階段を使って、各フロアの視覚的な連続性を確保するのも、移動を促進する優れた手段である。また、限られた空間の中でプライバシーを確保したい場合には、同じ距離を離すのでも、水平方向ではなく垂直方向に離し、その間を視覚的な分断をする踊り場のある階段でつなげばいいことになる。そういう意味では、家族間のプライバシーを確保するという観点から、メゾネットタイプ(2層(階)以上で1住戸を構成する集合住宅の形式。和製仏語。)の集合住宅というのはもっと見直されていい。











